
ピカソmeetsポール・スミスを観にやってきた国立新美術館ですが、この建物にもとても興味があって美術館単独でも来てみたかった場所でした。
国立新美術館はコレクションを持たない珍しい美術館です。国内最大級の展示スペースを生かし、多彩な展覧会を開催しています。この日も、別の展示室では書道の作品展的なものをやっていました。通りすがりにチラッと見ただけなのですが、一般の方の書道コンクール的なものに見えたので、こんな素敵なところで自分の書が飾られるなんて嬉しすぎるなーと思いました。「森の中の美術館」をコンセプトに2007年に開館しました。隣接する青山霊園と青山公園緑地との連続性を考慮した上で木々が植えられているそうです。この場所から撮るとあんなに印象的な波打つガラスのカーテンウォールが木に埋もれてしまってうまく写真が撮れなかった理由が判明しました。

入場する時は夕暮れ時でしたが、出る頃にはすっかり夜に。ライトアップされた国立新美術館は圧巻の美しさでした。

エントランスの円錐形の中に入ったらこんな感じ。SF映画で、宇宙船や宇宙基地の中に入った時に見るような景色が広がっていました。このまま垂直に上階に運ばれていっても不思議じゃないかも。

ロビーには巨大な逆円錐(コーン)が配置されています。これ、写真で見たときに「どういうこと?」ってなった二つ目のポイント(一つ目はガラスのカーテンウォール)。巨大な円錐が空から降ってきて地面に突き刺さったみたいな迫力あるものを想像していたのですが、実際に見てみるとそこにあることが何も不思議ではなく、このバランス以外にないというくらいロビーの風景として馴染んでいました。こんな不思議なものが違和感なくそこにあるというのが本当に不思議。エントランスに近い側の逆円錐の上にはレストラン、奥の逆円錐の上にはカフェがあります。どちらも利用する時間がなかったのですが、次はカフェかレストランを利用するために美術館に来てもいいかもと思いました。

来場者の方がそれぞれの時間を過ごす美術館のロビーっていいですよね。

展示室のある2階から眺めるカーテンウォールとカフェ。

1階のアトリウムにもテーブルがあって、飲食できます。私も鑑賞後にコーヒーを飲んで一息入れました。この時間よりもさらに人が少なかったので、静かで美術鑑賞後の沸騰した頭や心をクールダウンするにもちょうど良い場所でした。

早く展覧会を見始めなきゃ!と思いつつ、建築が素晴らしすぎて、カーテンウォールから見る外の景色が美しく、外から差し込む夕暮れの日差しが柔らかくて優しくて、こっちもじっくり観察したい!という衝動を抑え込むのが大変でした。この柔らかな光は、カーテンウォールの外側に水玉模様をプリントしたフィルムを挟んだ二枚合わせガラスの水平ルーバーを設けているから。これにより、建物に入る紫外線と赤外線が減っています。
この国立新美術館の設計は世界的建築家である黒川紀章氏。生前に完成させた最後の建築です。
黒川紀章らがが提唱していた「メタボリズム」という建築・都市理論があるのですが、このカーテンウォールはメタボリズムを具現化していると言えるそうです。それは、3次元的で複雑な曲面を持つガラスのカーテンウォールが建物の内と外、自然と人工物をつなぐ中間領域を作り出す役目を果たしていて、これが「建築と自然との共生」となるわけです。文章で読んでいても、理解できるような出来ないような感じなのですが、実際にこの建物を外から眺め、中に入って日差しを感じ都会の中にあることを忘れる木々たちを見ることで、その意味を体感することができます。中間領域とはまさにアトリウムのことであり、建物の中に居ながらも外の自然の恵みを体で受け止め心地よい時間を過ごすことができるのです。

陽が完全に落ちると、建物の中に居てもシンッとした夜の闇を感じることができます。六本木という場所柄、外にいるよりもより夜らしい静かな暗闇を体感できるかもしれません。
アトリウムを見ていて気づくことは、「柱がない」ということ。この構造は、床から天井までの高さがあるマリオンと呼ばれる鉄製の柱を2m間隔でカーテンウォールに組み込み分散配置し、屋根やカーテンウォールを支えています。前述の水平ルーバとマリオンによりカーテンウォールを格子状に見せて、建物の外観に立体感を与えています。

外に出てからも離れがたい、ずっと見ていたい建築。写真で見て憧れていたけれど、本物を見たらその何百倍も魅力的で美しかった。色々な季節に色々な時間帯でまた見に来たいな。

少し離れると、また木々の中に埋もれる美術館。あんなに圧倒的な建築なのに、周りと共生している。人工的な建造物だけれど呼吸をしているような、そんな建築でした。離れがたくて何度も振り返りながら帰りました。
黒川紀章とメタボリズム
1960年代の高度経済成長期に黒川紀章や菊竹清訓、槇文彦といった若手建築家・デザイナーらが中心となって提唱した建築・都市理論。英語の新陳代謝(metabolism)に由来し、「建物や都市も生物のように時代や人口の変化に合わせて成長し、部分的に交換されながら進化し続けるべきだ」というアイデアに基づいている。
アイデアと特徴
・「永久不変の完成」を否定する
従来の建築は「一度建てたら完成し、老朽化したら壊す」という固定的な考え方だったが、メタボリズムでは建築を「成長し進化するもの」と捉え、変化を前提とした設計を行う。
・構造の分離(コアとカプセル)
エレベーターや配管など長寿命な構造体(コア)と個室や設備などの短寿命な生活ユニット(カプセル)を明確に分け、老朽化したユニットだけを取り替えることで建物全体を長持ちさせる仕組み。
・代表作「中銀カプセルタワービル(1972年)」
黒川紀章が設計した銀座のビルでメタボリズム思想を最も象徴する建築。
戦後の急速な人口増加に対応するため、増築や更新が容易なシステムを目指した革新的な運動。海外の現代建築や都市計画にも大きな影響を与えた。
中銀カプセルタワービルの「カプセルの交換」は高額すぎるコスト(全交換に20億円以上かかると試算された)と構造的制約、配管やインフラの複雑さ、個別に分譲された140あるカプセルの所有者全員の合意形成などの問題で非常に難航し、老朽化により惜しまれつつも2022年に解体された。解体時に取り外されたカプセルのうち23基は修復・再生され世界各地の美術館や宿泊施設に展示スペースとして「移築・再利用」されている。
失敗とされた技術的課題も含め、メタボリズムが残した実験精神と課題意識は現代の「サステナブルアーキテクチャ」を考える上で非常に重要な礎となっている。
